警視庁を脅迫しているのは元・警察官……? ~『虚空の糸 警視庁殺人分析班』読了~
にかどくです。
今回は『虚空の糸 警視庁殺人分析班』を読了したので、こちらの感想を書いていきます。
著者紹介
本作の著者は麻見和史さんです。
過去の記事に記載した詳細をもう一度ここで紹介させていただきます。
1965年、千葉県生まれ。2006年『ヴェサリウスの柩』で第16回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。
ドラマ化され人気を博した「警視庁殺人分析班」シリーズに『石の繭』(本書)『蟻の階段』『水晶の鼓動』『虚空の糸』『聖者の凶数』『女神の骨格』『蝶の力学』『雨色の仔羊』『奈落の偶像』『鷹の砦』『凪の残響』、『警視庁文書捜査官』シリーズに『警視庁文書捜査官』『永久囚人』『緋色のシグナル』『灰の轍』がある。
その他の著作に『水葬の迷宮 警視庁特捜7』『死者の盟約 警視庁特捜7』『深紅の断片 警防課救命チーム』など。
麻見和史著『石の繭 警視庁殺人分析班』
(2013年/講談社/著者紹介より)
概要
マンションの非常階段で発見された、自殺を装った他殺死体。
捜査一課の如月塔子が偽装の意味を思案するさなか、犯行声明と新たな殺害を仄めかすメールが警視庁へ届いた。
翌日以降も、都民を毎日ひとりずつ殺していくという。
警察への怒りを露わにする犯人の、真の目的とは。
殺人分析班の逆転の推理が冴える!
麻見和史著『虚空の糸 警視庁殺人分析班』
(2015年/講談社/裏表紙より)
主な登場人物
・如月塔子(きさらぎ とうこ)
警視庁刑事部捜査1課殺人犯捜査11係の巡査部長で、26歳。
低身長で童顔であることから、職場では子ども扱いされる。
物事に根を詰めてしまうタイプで、危なっかしい場面がある。
・鷹野秀昭(たかの ひであき)
警視庁刑事部捜査1課殺人犯捜査11係の警部補で主任。32歳。
塔子の教育係でもある。
100円ショップのアイデア商品の収集が趣味。
常にデジカメを持っており、現場や珍しいものを写真に収める記録魔。
・早瀬泰之(はやせ やすゆき)
警視庁刑事部捜査1課殺人犯捜査11係の係長。46歳。
捜査1課長の神谷と管理官の手代木と共に捜査指揮を行う。
胃薬を飲んでいる。
・門脇仁志(かどわき ひとし)
警視庁刑事部捜査1課殺人犯捜査11係の警部補で主任。37歳。
行動力には定評があるが、ときに強引な捜査を進めることがあることから、「ラッセル車」というあだ名がついている。捜査方針を巡って、手代木管理官としばしば衝突する。テレビ番組を調べるのが趣味。
・徳重英次(とくしげ えいじ)
警視庁刑事部捜査1課殺人犯捜査11係の巡査部長。53歳。
温厚な性格で且つ腹部がポッコリ出ているため、七福神の布袋さんのように見える。
インターネットの掲示板にアクセスすることが趣味。
・尾留川圭介(びるがわ けいすけ)
警視庁刑事部捜査1課殺人犯捜査11係の巡査部長。30歳。
お話し好きでお調子者。ホームステイをしたことがあるというだけで、帰国子女を自称している。
容姿が良いため女性警察官からは人気がある。
・神谷太一(かみや たいち)
警視庁刑事部捜査1課長。かつて如月塔子の父である如月功(きさらぎ いさお)とはコンビを組んで事件の捜査をしていた。
・手代木行雄(てしろぎ ゆきお)
警視庁刑事部捜査1課の管理官。細かいことを気にする性格で、門脇とは捜査方針で衝突している。
・樫村伸也(かしむら しんや)
警視庁刑事部捜査1課特殊犯捜査1係(SIT)の係長。
今回の警視庁脅迫事件では捜査の指揮を執る。
・広瀬奈津美(ひろせ なつみ)
警視庁刑事部捜査1課特殊犯捜査1係(SIT)の巡査部長。32歳。
4年前に夫が病死しており、いまは実家に戻って母親と奈津美の娘の3人で暮らしている。
・菊池康久(きくち やすひさ)
フリーのシステムエンジニアで39歳独身。南砂事件の被害者。
南砂団地9号棟7階の703号室に住んでいた。
南砂団地9号棟の6階と7階の途中にある踊り場で、左胸に右手で握ったナイフが突き刺さった状態で発見された。
型落ちのパソコンをオダギリテクノスより購入していた。
・横川直弥(よこかわ なおや)
食品メーカーで健康食品の営業マンで40歳独身。葛飾事件の被害者。
胸を刺された状態で警視庁葛飾署独身寮のそばに停めてあった乗用車のトランクから発見された。トランクには大量の睡眠導入剤が放置されていた。
・安斎隆伸(あんざい たかのぶ)
葬儀社に勤める会社員で、44歳独身。南千住事件の被害者。
警視庁南千住署の斜め向かいの工務店の廃材置き場で布団袋に入れられた状態で発見された。胸を刺されて死亡していたが、首にはナイロン製のロープが巻かれていた。
・小田切洋和(おだぎり ひろかず)
家電販売店オダギリテクノスの社長。
南砂事件の被害者である菊池とは飲み仲間でありながら、お得意先だった。
・後藤勝典(ごとう かつのり)
自営の配送業者。
オダギリテクノスとは業務契約をしており、商品の配送や設置、古い家電の引き取りをしている。
・平野庸次(ひらの ようじ)
元警視庁葛飾署刑事課の巡査部長。41歳。
我が強く上の者に反発することが多かっただけでなく、部下には暴行に近い体罰を行っていた。
強行犯事件の捜査には力を入れており、一度食らい付いたら放さないという粘り強さがあった。
殺人事件に関しては特に捜査に力を入れていたため、マーダーホリックと呼ばれていた。
数々の不祥事のため懲戒処分を受け、警視庁を去った。
感想(※ネタバレ含みます。)
本作では警視庁が脅迫されているという前代未聞の事件が起きていますが、僕が面白いと思った部分はその事件の内側にある3つの事件です。
南砂事件では、フリーのエンジニアである菊池が右手でナイフを左胸に刺した状態で遺体が発見されています。
しかし、遺体が残された現場には血溜りが一切残っていないのです。
そして葛飾事件では、健康食品の営業マンである横川も胸を刺されて死亡していたわけですが、その遺体のそばには大量の睡眠導入剤が放置されていました。
最後の南千住事件では、葬儀社の会社員である安斎がやはり胸を刺された状態で死亡していました。
しかしその首元にはナイロン製のロープが巻かれていました。
明らかに他殺であると判断できるのに、どうして犯人は自殺に見せかけたのでしょうか。これがとにかく謎でした。
でも読み進めていくとその謎が明らかになっていきます。
実はこの3人は非合法の商売をしていたことがわかりました。
具体的に何をしていたかというとお金に困った人を対象にした生命保険ビジネスです。
自殺では生命保険金が下りないため、この3人が行ったのは彼らが運営する遊糸会(ゆうしかい)に人生に絶望し死にたいと考えている人たちを会員として入会させ、会員が自殺した後に事故死に見えるように偽装工作を行っていたのです。
謝礼金は自殺する前に借金をさせるなどして3人は貰っていました。
つまり犯人は3人の犯罪を知らしめるために、あえて他殺を自殺に見せかけていたのです。
そして3人の犯罪を捜査していたのが、懲戒処分を受けて警察官を辞めた平野でした。
しかし、当時の葛飾署刑事課長の宮本に捜査を中止するよう命じられ、その命令に反発したために警察官を辞めることとなってしまいました。
正義感の強い平野にしてみれば、捜査の中止は到底受け入れられません。
だから平野には警視庁を脅す理由が十二分にありました。
警視庁は平野が一連の犯人であると目星を付けて捜査しています。
それに犯人の描写も平野の言動と思われるものばかりなので、読者も平野に目星を付けると思います。
実際僕も平野が犯人だと決め付けていました。
もし平野が犯人だと決め付けている読者がいるのであれば、著者の意図したとおりのミスリードに引っかかってしまっています。
でもよくよく考えてみると、平野に容疑が向く材料が揃い過ぎているんですよね。
ここを見抜くことができれば、平野が犯人ではないと気付けたのかもしれません。
ただ、真犯人を見抜くことができないのですが……。
この事件で驚くべきなのはそこだけではありません。
警視庁にはこの事件の真犯人に協力する人間がいました。
それが誰なのかを推測するのもなかなか面白いかもしれません。
最後に
今回は麻見和史さんの『虚空の糸 警視庁殺人分析班』の感想記事を書いていきましたが、いかがだったでしょうか。
読んでいて疑問に思ったことが1つだけあります。
どうして遊糸会事件の捜査を中止したのかということです。
これは作中で門脇も神谷捜査一課長に説明を求めていますが、一切答えませんでした。
処理はこちらで行うの一点張りでした。
捜査を中止せざるを得ない事情があったのでしょうか。
現実にもこういう話はありそうな気がしました。
今回の感想記事で取り上げた『虚空の糸 警視庁殺人分析班』は警視庁殺人分析班シリーズの4作目にあたります。
毎回のように書いていますが、どの作品から読んでも十分に楽しめるので気になった方は読んでみてはいかがでしょうか。
1作目の『石の繭 警視庁殺人分析班』から読んでいくと如月塔子の成長を見守ることができて面白いです。
僕は1作目から順々に読んでいくことをお薦めします!
以上、麻見和史さんの『虚空の糸 警視庁殺人分析班』の感想記事でした。
最後までご覧いただき、ありがとうございました!
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