にかどくです。
今回は『晴れたらいいね』を読了したので、こちらの感想を書いていきます。
著者紹介
本作の著者は藤岡陽子さんです。
慈恵看護専門学校卒業。
2006年「結い言」が宮本輝氏選考の北日本文学賞の選奨を受ける。
'09年、看護学校が舞台の長編小説『いつまでも白い羽根』でデビュー。
その他の著書に『海路』『トライアウト』『ホイッスル』『手のひらの音符』『波風』(「結い言」収録)『闇から届く命』『晴れたらいいね』『おしょりん』『テミスの休息』『リアル・プリンセス』がある。
藤岡陽子著『晴れたらいいね』
(2017年/光文社/カバー袖より)
ちなみに『いつまでも白い羽根』は2018年に女優の新川優愛さんが主演でドラマ化されています。
概要
夜勤中に地震に見舞われ意識を失った看護師の紗穂。
気がつくとそこは一九四四年のマニラで、さっきまで病室にいた老女の若き日の姿になっていた!
困惑を抱えたまま、従軍看護婦として戦争に巻き込まれる紗穂。
それでも、持ち前の明るさで数々の理不尽に抗いながら、過酷な日々を駆け抜けていく。
反戦の意志と、命を背負った女たちのかけがえのない青春が紡ぐ圧倒的感動作。
藤岡陽子著『晴れたらいいね』
(2017年/光文社/裏表紙より)
登場人物
主な登場人物を自分なりにまとめてみました。
・高橋紗穂(たかはし さほ)
都心の総合病院に勤務する看護師。24歳。
夜勤中に2年前から意識を失っていた雪野サエの病室を訪れた際に起きた地震によって、1944年のマニラに雪野サエとしてタイムスリップしてしまう。
当時の常識を受け入れられない紗穂は軍人や看護婦長に目を付けられてしまうが、徐々に従軍看護婦たちの中で常識が変わり始める。
・雪野サエ(ゆきの さえ)
都心の総合病院に入院している95歳の患者。
戦時中は日赤従軍看護婦としてマニラに赴いていた。
紗穂がタイムスリップした際は、川岸に倒れていた。
・藤原美津(ふじわら みつ)
記憶を失ったサエ(紗穂)に色々と教えた日赤従軍看護婦。
休日には黙ってどこかへ行ってしまうが、現地の人たちを助けたことでお礼として食事に誘ってもらっていたからだった。
サエに字を書いてもらったときに、その正体がサエではないことに気付いていた。
・岩倉民子(いわくら たみこ)
ストレートな物言いをする日赤従軍看護婦。
父親は中将であるためお嬢様ではあるが、父親が大嫌いなために自ら従軍看護婦になった。
・菅野(すがの)
日赤従軍看護婦長。軍医の佐治と共に川岸で倒れていたサエを発見した。
従軍看護婦としてのキャリアが長いため、敵軍からの攻撃を受けても冷静に考えて指示を出していた。
・進藤初代(しんどう はつよ)
台湾出身の日赤従軍看護婦で日本人の養子となった為に、日本名を名乗っている。
本名は方玉賀(ファンユーハ)。
現地の患者の看病に当たろうとした際に移民から非難されたが、国籍関係なく看病することが自分たちの使命だと豪語した。
・北川梅(きたがわ うめ)
19歳の陸軍看護婦。
マニラの隔離病棟を担当しており、感染症患者が同時に10名も出た時には応援に来た紗穂と美津とともに看病に当たった。
戦況が悪くなった際には、手榴弾のピンを自ら引き抜き死のうとした。
・兵藤(ひょうどう)
陸軍看護婦長。
感染症患者が同時に10名も出た際、アイスキャンディーを作って患者に食べてもらうという案を紗穂から提示され、九州弁で怒った。
乳飲み子を日本に置いて赴任している。
帰還船を待っている途中に命を落とす。
・白田紀江(しろた のりえ)
陸軍看護婦。実家が酪農家であることから、畑のことに詳しい。
坑道病院で北川と共に看病をしていたが、そこで壮絶な体験をする。
・佐治(さじ)
陸軍の軍医。
常識から逸脱している紗穂に注目しており、彼女がピンチの時には駆けつけていた。
食料調達の際に命を落とす。
・岩代(いわしろ)
陸軍の伍長。
看護婦の前では偉そうな態度を取るが、佐治軍医の前では階級が自分の方が下であることから低姿勢になっている。
常識から逸脱している紗穂とはしばしば対立する。
感想(※ネタバレあり)
戦争の悲惨さが鮮明に描かれている作品でした。
本作の主人公の紗穂は地震によって1944年(太平洋戦争中)のマニラに雪野サエとしてタイムスリップしてしまいます。
そこでは現代のように衛生環境が整えられていなければ、医療技術も発展していません。
だから、患者の身体から蛆虫が湧いていたり、包帯は洗浄して使いまわすといった場面が何度も何度も出てきます。
このことから物資や薬剤が不足していたことが分かると思います。
そんな中でも戦地に赴いた看護婦たちは命を救うために懸命に看病します。
しかし、悲しいのは傷や病気が癒えても軍人はまた戦地に戻らなければならないということです。
救われた命が再び戦地に戻り、命の危険に晒されるということに当時の看護婦たちは自分たちの存在理由が分からなくなったのではないかと思います。
命を救うためにいるのか。
国のために命を落とさせるためにいるのか。
人の命を奪うためにいるのか。
こんな風に迷ったのではないでしょうか。
少なくとも僕はそう思ってしまいます。
せっかく救った命をどうして自ら捨てに行くのか、と……。
当時の日本にとって、この考え方は異常です。
お国のために死ぬことが立派なことだという常識が戦時中にはあったからです。
だから紗穂が捕虜になりそうだったら自決せずに降伏するといった趣旨の言葉に、岩代伍長は怒りを顕にしました。
岩代伍長は日本人としての誇りを持っていたからこそ、紗穂の言葉を許すことができなかったのだと思います。
しかし誇りと命を天秤にかけた時、果たしてどちらの方が重いのでしょうか。
現代の考え方からすれば、当然命です。
命が絶たれてしまえば誇りなんて持つことなどできません。
ましてや誇りから命が生まれることもありません。
つまり、命を失ってしまえばその人の生はそこで終わりなのです。
そのことに早く気付けていれば、戦争の被害はもっと少なくなったのかもしれません。
戦争をしても何の得にもならないということを改めて再確認しました。
この作品で救いだったのは、紗穂がタイムスリップしたことで従軍看護婦たちの意識が変わったことです。
捕虜になってでも生きて日本に帰る、という意識が従軍看護婦の間で広がったことで、看護婦たちの団結力が以前よりも増したように感じました。
命を捨てることが当たり前とされていた常識をひっくり返すために、現代の看護師である紗穂がタイムスリップしたのだと最終的には思いました。
最後に
今回は藤岡陽子さんの『晴れたらいいね』の感想を書いていきましたが、いかがだったでしょうか。
本作品はバリバリの反戦小説です。
平和な現代だからこそ、戦争の空しさや命の大切さを忘れてはならないと思いました。
気になる方は是非チェックしてみてください。
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このフェアは対象書目がなくなり次第終了とのことなので、日向坂46のスペシャルカバーをGETしたい方は、手に取ってみてください!
以上、藤岡陽子さんの『晴れたらいいね』の感想記事でした。
最後までご覧いただき、ありがとうございました!
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