にかどくログ

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結局、人は人を色眼鏡で見て判断する。 ~東野圭吾著『手紙』読了~

にかどくです。

 

今回は『手紙』という小説を読了したので、こちらの感想記事を書いていきます。

手紙 (文春文庫)

 

著者紹介

本作の著者は東野圭吾さんです。

著者を知らない方はいないんじゃないかと思えるほどの、超有名な作家さんです。

1958年、大阪府生まれ。大阪府立大学電気工学科卒。

エンジニアとして勤務しながら、85年、「放課後」で江戸川乱歩賞受賞。99年、「秘密」で日本推理作家協会賞受賞。

2006年、「容疑者Xの献身」で直木三十五賞受賞。

同書は本格ミステリ大賞、2005年度の「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」各第1位にも輝き、12年にはエドガー賞(MWA主催)候補作となった。

同年、「ナミヤ雑貨店の奇蹟」で中央公論文芸賞

13年に「夢幻花」で柴田錬三郎賞

14年に「祈りの幕が下りる時」で吉川英治文学賞を受賞。

白夜行」「麒麟の翼」「マスカレード・ホテル」「ラプラスの魔女」「沈黙のパレード」など著書多数。

幅広い作風で活躍し、圧倒的な人気を得ている。

 

東野圭吾著『手紙』

(2006年/文藝春秋/著者紹介より)

 

概要

強盗殺人の罪で服役中の兄、剛志。

弟・直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が届く……。

しかし、進学、恋愛、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかる。

人の絆とは何か。

いつかは罪は償えるのだろうか。

犯罪加害者の家族を真正面から描き、感動を呼んだ不朽の名作。

解説・井上夢人

 

東野圭吾著『手紙』

(2006年/文藝春秋/裏表紙より)

 

主な登場人物

・武島直貴(たけしま なおき)

本作の主人公。実兄である剛志の犯した罪のため、世間からは強盗殺人犯の弟として認識されてしまう。罪を犯した兄の存在を隠しながら仕事に励んだり音楽活動をするも、最終的には兄の存在がバレてしまい、距離を置かれてしまう。

 

・武島剛志(たけしま つよし)

直貴の実兄。直貴の大学進学費用を得るために、引っ越し屋の仕事を手伝いで家の様子を知っていた緒方家に侵入。しかし老婦人に見つかり事件の発覚を恐れて彼女を殺害し、強盗殺人罪で逮捕される。刑務所から毎月直貴に宛てて手紙を書いている。

 

・白石由美子(しらいし ゆみこ)

直貴が働く工場の食堂で直貴に話しかけ、それ以降クリスマスカードやチョコ、手編みの手袋を直貴に渡したりした。直貴が大学生になると直貴のバイト先のバーを訪れたり、直貴が参加するバンドのライブに足を運んだ。

 

・寺尾祐輔(てらお ゆうすけ)

直貴が通信課程の大学に入学した際、教室の中で一番頭が良さそうという理由で直貴に話しかけた。直貴の歌声に魅力を感じて、彼をバンドのメンバーにボーカルとして加えた。直貴から剛志の件を明かされるが、それはバンドとは無関係だと主張した。

 

・中条朝美(なかじょう あさみ)

直貴が通う大学の哲学科に籍を置いており、直貴とは合コンで出会う。

直貴のアルバイト先のバーでボーイフレンドと縁を切ったことをきっかけに、直貴との仲を深めて直貴の恋人となる。裕福な家庭で育っている。

 

・平野

直貴が大学卒業後に就職した新星電機の社長。店舗から倉庫業務に異動となり不服を感じている直貴のもとを訪れ、なぜ倉庫業務へ異動となったのかを明かす。

 

・梅村

直貴の高校時代の担任教師。直貴を心配してアルバイト先を紹介したり、食事を提供したりした。

 

・武島美紀(たけしま みき)

直貴と由美子の娘。由美子と銀行から自転車で帰る際にひったくりの被害に遭い、一時意識不明となるが、一命を取り留める。しかし額に傷が残ってしまう。

 

・前山夫妻

美紀に額の傷を作ってしまったきっかけとなったひったくり犯の両親。

息子が犯した罪の謝罪をするために直貴と由美子の元へ訪れる。

 

・緒方忠夫(おがた ただお)

剛志によって殺害された老婦人の息子。剛志からは刑務所に入ってから毎月のように手紙が届き不愉快だと思っている。

 

感想(※ネタバレ含みます。)

本作は大変重いテーマを扱っていると思います。

というのも、これは主人公が犯罪者の親族という十字架を背負って生きていく物語だからです。

 

どこで何をしようとも必ず兄の存在が明らかにされてしまいます。

 

梅村から紹介されたエスニック料理店で直貴がアルバイトしているときには、直貴が通う高校のクラスメートによって兄が殺人犯であることを暴露されてしまいます。

それを契機に店員とお客さんの間では気まずい雰囲気が流れてしまいます。

直貴以外の店員に話しかけて、直貴と話さないというのはおかしい。

殺人事件や推理小説の話、家族の話もやめよう。

そんな風にお客さんたちは直貴に配慮する形で様々なタブーを作ってしまいました。

つまりリラックスして食事を楽しめる状況ではなくなってしまったのです。

そうなるとお店の売り上げにも多大な影響を及ぼす可能性があります。

それを考慮した直貴は懸命に働いていたお店を自ら辞めてしまいます。

 

寺尾とバンド活動をしているときもそうです。

音楽業界の人間がデビュー寸前のバンドに対してある条件を提示します。

それはバンドから直貴を外すことでした。

もし直貴を入れた状態でバンドをデビューさせてしまうと、直貴の兄のことでトラブルが起きる可能性があります。そしてそれをきっかけにバンドのイメージが悪くなってしまうので、会社としてもバンドを力を入れて売ることができなくなってしまう。

せっかくデビューの話がきたのに直貴のことで諦めたくないと思った寺尾以外のメンバーは直貴にバンドを抜けるよう頼みます。

寺尾は直貴が抜けるならデビューしないと主張しますが、事件後初めて心が繋がったと思った大切な仲間の夢を奪うことはできないと考えた直貴は、潔く身を引きました。

 

朝美と付き合っていたときもそうです。

朝美の父親は一流の医療機器メーカーの役員。

だから朝美は裕福なわけですが、そんな裕福な家庭に強盗殺人犯の弟を受け入れてしまうと中条家のイメージダウンに繋がると思ったのでしょう。

また、朝美が直貴と結婚してしまうと朝美にも盗殺人犯の……』というレッテルを貼ることになってしまい、直貴の苦労を朝美にも背負わせてしまうことになります。

それを親としては見過ごすことができなかったのです。

結局、直貴は朝美と別れてしまいました。

 

他にも直貴の身にはいろいろと起こりますが、とにかく直貴が不憫で不憫でならないのです。

もし仮に自分の身の回りで犯罪加害者の親族がいたとしたら、今まで通り何もなかったかのように接するのはかなり難しいなと思います。別に犯罪加害者の親族ということだけで、親族が犯罪を起こしたわけではありません。

でも、近寄りたくないなと思ってしまうのは、犯罪加害者の親族と関係を持つことで犯罪加害者の次なるターゲットにされてしまうのではないかと無意識に思ってしまうからなのではないかと思いました。

 

本作の前山夫妻もきっと直貴と同じように『強盗犯の親』という十字架を背負って生きていくことになるのでしょう。この人たちももしかしたら直貴とは違う、と息子が事件を起こす前までは思っていたかもしれません。

そう考えると、誰でもそういう目で世間から見られてしまう立場になる可能性があるのです。

 

差別はいけないこととわかっていながら、自身に悪影響を及ぼす恐れがある場合には本作の人間のように「あの人は自分たちとは違う」と積極的に差別してしまうのは、人間の悲しき習性なのかなと思ってしまいました。

差別はいけないことだ、と言えるのは自分が差別とは無縁だからなのかもしれません。

もっと言えば、自分が差別を無意識のうちににしているという事実から目を背けているだけなのかもしれません。

 

もちろん差別がいけないということは言うまでもありません。

僕も無意識のうちに差別していることはないか気を付けて生きていきたいと思います。

 

最後に

今回は東野圭吾さんの『手紙』の感想記事を書いていきましたが、いかがだったでしょうか。

本作は2006年に俳優の山田孝之さんが主演で映画化されていますし、2018年にはKAT-TUN亀梨和也さんが主演でスペシャルドラマ化されています。舞台化、ミュージカル化もされているようで、本作がとても人気のある作品であることが伺えます。

 

感想部の冒頭に書いたように本作は大変重いテーマです。

でも重たいテーマだからこそ、様々なことを考えさせてくれます。

さらに解説は「差別」について深く触れています。

本作ではビートルズの『イマジン』が登場しますが、どうして『イマジン』という曲が登場するのかが解説まで読むとハッキリします。

本作を読む方には、是非解説まで読んでいただきたいなと思います!

 

以上、東野圭吾さんの『手紙』の感想記事でした。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

 

手紙 (文春文庫)

手紙 (文春文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2006/10/06
  • メディア: 文庫
 

 

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