にかどくです。
今回は『R帝国』を読了したので、こちらの感想を書いていきます。
著者紹介
本作の著者は中村文則さんです。
詳細は以下の通りです。
1977年、愛知県生まれ。2002年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。
04年『遮光』で野間文芸新人賞、05年『土の中の子供』で芥川賞、10年『掏摸〈スリ〉』で大江健三郎賞を受賞。同作の英訳版が米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの2012年年間ベスト10小説に選ばれる。14年、アメリカでデイビット・グディス賞を受賞。
他の著書に『教団X』『その先の道に消える』『逃亡者』、エッセイ集『自由思考』などがある。
中村文則著『R帝国』
(2020年/中央公論新社/著者紹介より)
概要
近未来の島国・R帝国。
人々は人工知能搭載型携帯電話・HP(ヒューマン・フォン)の画面を常に見ながら生活している。
ある日、矢崎はR帝国が隣国と戦争を始めたことを知る。
だが、何かがおかしい。
国家を支配する絶対的な存在”党”と、謎の組織「L」。
この国の運命の先にあるのは、幸福か絶望か。
やがて物語は世界の「真実」にたどり着く。
中村文則著『R帝国』
(2020年/中央公論新社/裏表紙より)
登場人物
主な登場人物をざっくりとまとめてみました。
・矢崎トウア
R帝国コーマ市民。
普段は優柔不断だが、緊急時には自棄を起こしてしまう性格のようで、コーマ市の図書館に避難した際に防犯カメラの映像を見て逃げ遅れた女性がいたことを知り、Y宗国の兵士が活動している中で単身で女性を助けに行く。
女性を助けた際にY宗国の兵士に襲われるが、その最中でY宗国の兵士であるアルファに救われる。
・アルファ
Y宗国の死刑囚で兵士。R帝国に移民として住んでいたとき、顔に入っているタトゥーを栗原に「格好良い」と褒められた過去を持つ。
GY人にしかかからない感染症にかかり、血の付いた自身の髪の毛を矢崎に託し、
R帝国の無人機から集中砲火を受けて亡くなる。
・栗原
R帝国の野党議員である片岡の秘書。加賀や早見から国家党の議員になるよう監禁されるが、潜り込んでいたLのスパイによって助け出される。
R帝国の真実に迫るため、R帝国を支配する国家党(通称:党)に抵抗する「L」のメンバーであるサキと行動を共にする。
・サキ
「L」のメンバー。R帝国の最北の島であるコーマ市にだけ特殊な羽蟻がいることを掴み、野党議員の片岡に情報を流すために栗原と接触する。以後、栗原と行動を共にするが、次第に栗原に惹かれていく。父親は写真家、母親は外国の紛争地域や災害地域に行き医者として活躍していた。
・片岡
R帝国の野党議員。国家党に抵抗する「L」と関係しており、国家党とは対極の関係に身を置いているが、実はR教会から「L」に送り込まれた人物。
・加賀
国家党の中枢の一人で、国の方向性を決める”党”の”R会議”のメンバーの一人。
若い頃、製薬会社の役員だった。栗原を国家党の議員にしようと企む。
薬を飲んで、一度記憶を消している。IQが高く、冷酷な人間。
・早見
”R会議”のメンバーの一人。矢崎が孤児院にいたときに、R帝国首相として孤児院を訪問し、自身も孤児であったことを告白する。栗原を国家党の議員にしようと企む。
・富樫原
国家党の暴言王で、R帝国の次期首相。今後の戦争に耐えられるよう国民を馬鹿にするべく、国家党より次期首相に選ばれる。
感想
本作の帯には、こんな文言が書かれています。
「『教団X』に続く衝撃作、待望の文庫化」
読了後、この文言に強い納得感がありました。
本作の舞台は日本ではありません。それどころか、現実の世界にある国も本作には存在していません。
本作で現実に存在する国が登場するのは、国家党の中枢人物の一人である加賀によって語られるときだけです。しかも、昔そういう国があったというわけではなく、誰かが想像して書いた世界(要するに小説)の中に存在する国としてしか登場していません。
だから、第二次世界大戦だとかいう話は、本作の世界観では想像上の物語という位置付けになっています。
こうなるとパラレルワールドの話にも見えますが、個人的には日本の数百年後の未来がR帝国なのではないかなと思っています。登場人物の名前に漢字が使われていますし。
ただ、本作の怖いところは現実世界を良くも悪くも反映している点です。
本作ではHPという人工知能搭載型携帯電話が登場しますが、これはスマートフォンのことを指しているのだと思います。HPは人格を持っているので、人間と話すことができたり、物事を考えて人間に言動のアドバイスを与えたりしています。Siriやエモパーにはまだまだ人格を持つ段階には至っていないですが、技術が発展してきていることからそれらが人格を持つようになるのも時間の問題かもしれません。
ただ本作と共通しているのは、人間がスマートフォンやHPに強く依存していることです。暇さえあればスマートフォンを弄る人が現実にもたくさんいると思いますし、僕もその一人であることは否めません。本作でもHPを見ながら人間が生活していますが、ここでは自身の言動の決定をHPに投げています。何せ的確なアドバイスをくれるわけですから、HPを使わない手はありません。ただし、これは危険なことであるともいえます。自身の行動の決定権をHPに渡すことで、人間はどうなるか。自分の頭で物事を考えなくてよくなるのですから、思考力が衰えてきます。思考力が衰えてくるとどうなるか。
例えばの話ですが、誰かが戦争をしようという意見を出したときに、「なぜ戦争をしなければならないのか」という疑問を浮かべることもなく、その意見に賛成してしまうようになります。つまり、短絡的な考え方しかしなくなってしまうのです。例え話がとても極端でしたが、自分の意見を持てなくなり、誰かの考えに何の疑いも向けずに振り回されてしまうのは恐ろしいですし、果たしてそれで生きている意味はあるのだろうかと思いました。
しかし、国家党の狙いはここにあるのです。国民がチンパンジーのように馬鹿になっていけばいくほど、国を動かしやすくなるのです。国民が馬鹿になっていけばなるほど、国の指針を素直に受け入れるようになる。だから、さっきの例え話のようなことも平気でできてしまうというわけです。国の考え方に国民は無条件で賛成するようになります。たとえ反対意見が出てきたとしても、国の考え方が正しいと思っている人が大半なので、反対意見を出した人間を圧倒的な数を率いて批判して叩くようになります。
そんな場面が本作では何回か出てきますが、これも現実世界では悲しいことに頻繁に行われています。特定の人物をSNSで圧倒的な数を以って叩くという行動です。
これも誰かの意見に流されていることが多い気がしてなりません。「他の人がそう言っていたから」、「みんなもやっていたから」。そうやって責任から逃れようとする加害者は多いような気がします。これも結局のところ、他人の考え方に流され自分の頭で考えなかったことによって起きているのかもしれません。
こうして考えてみると、現実世界が少しずつ本作の世界に近付いているように感じます。日本がR帝国のようにならないためにも、一人一人が物事を深く考え自身の意見を持って行動することが大切なのかもしれません。
本作では希望を持った終わり方をしているようにも見えますが、個人的には救いようのない終わり方をしていると思っています。なぜなら、R帝国の未来を変えるであろう希望の光は2人しかいないからです。逆に言えば、この2人を封じ込めることができれば、国家党の邪魔となる人物がR帝国内から消えることになるので、より国家党の思うがままに国を動かすことができるということになります。
本作を読んでいると、国家が必ずしも正しいことをしているとは限らないということが良く分かります。
最後に
今回は中村文則さんの『R帝国』の感想を書いていきましたが、いかがだったでしょうか。
本作を読んで、物事を自分の頭で考えて行動する大切さを思い知らされたような気がします。確かに他人に物事を判断してもらうのはとても楽ですが、その代償は大きいということを肝に銘じて生活していこうと思います。
『教団X』でも本作で出てくる”R”や”GY”のことについて語られていますので、気になった方は『教団X』も読んでみてはいかがでしょうか。
以上、中村文則さんの『R帝国』の感想記事でした。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
『教団X』のリンクも貼っておきます! 気になった方はチェックしてみては?☟