並行世界の人物は現実世界の人物と同一か? ~乙野四方字著『僕が愛したすべての君へ』読了~
にかどくです。
今回は『僕が愛したすべての君へ』を読了したので、こちらの感想を書いていきます。
著者紹介
本作の著者は乙野四方字(おとの よもじ)さんです。
1981年大分県生まれ。
2012年、第18回電撃小説大賞選考委員奨励賞を受賞した『ミニッツ ~一分間の絶対時間~』でデビュー。
同作は全5巻でシリーズ化された。
他の著書に『ラテラル ~水平思考推理の天使~』、『君を愛したひとりの僕へ』(ハヤカワ文庫JA)など。
--このテキストは、paperback_bunko版に関連付けられています。
引用元:僕が愛したすべての君へ(ハヤカワ文庫JA)|乙野四方字|日本の小説・文芸|Amazon
あらすじ
人々が少しだけ違う並行世界間で日常的に揺れ動いていることが実証された時代
―両親の離婚を経て母親と暮らす高崎暦は、地元の進学校に入学した。
勉強一色の雰囲気と元からの不器用さで友人をつくれない暦だが、突然クラスメイトの瀧川和音に声をかけられる。
彼女は85番目の世界から移動してきており、そこでの暦と和音は恋人同士だというのだが…並行世界の自分は自分なのか?
--このテキストは、paperback_bunko版に関連付けられています。
引用元:僕が愛したすべての君へ(ハヤカワ文庫JA)|乙野四方字|日本の小説・文芸|Amazon
主な登場人物
僕なりに登場人物をざっくりとまとめてみました。
・高崎暦(たかさき こよみ)
本作の主人公。
両親の離婚によって、母親と生活している。
難関の高校には首席で合格し新入生総代を依頼されるも辞退し、これがきっかけで和音と仲良くなる。
勉強をしていなくてもテストでは高得点を取っていたことから、和音にライバル視される。
後に並行世界を研究する虚質科学研究所の研究員となった。
・瀧川和音(たきがわ かずね)
本作のヒロイン。
暦の高校時代のクラスメイト。
暦には自分のことを当初85番目の並行世界から来た恋人だと告白したが、後に仕返しのための嘘だったことが判明する。
後に並行世界を研究する虚質科学研究所の研究員となった。
感想(※ネタバレ含みます)
ブログのタイトルからもわかるように本作は並行世界を取り扱ったSF小説でありながらも、恋愛要素も含まれています。
特に興味を持った点は、「並行世界にいる自分は果たして自分と言えるのか?」ということです。
これは本作のテーマにもなっていると個人的には思っています。
このテーマが如実に表れるのが、暦と和音の夜のシーンです。
2人が晴れて恋人の関係となり一夜を一緒に過ごそうとしたとき、和音がパラレル・シフト(並行世界間移動)が起きてしまいます。
分かりやすく言うと現実世界をA、並行世界をBとすると、このときAにいる和音は無意識のうちにBに行ってしまい、その代わりにBにいる和音がAに来てしまったという状況です。
ちなみに現実世界から少し離れた並行世界と現実世界の差異は少ないそうです。
朝食がパンかご飯かの違いぐらいだそうですし、鍵を一番上の抽斗に入れたか上から二番目の抽斗に入れたかの違いがあるぐらいだそうです。
だから並行世界にいる自分と現実世界にいる自分の思考もそれほど変わりません。
しかし、それでも暦は並行世界から来た和音のことを抱くことができませんでした。
なぜなら、並行世界の自分が現実世界の和音を抱いたら嫉妬せずにはいられなかったらです。
暦は並行世界にいる自分や和音は別人であるとこの時点では捉えているということがわかります。
極端な話、現実世界からかけ離れた並行世界の自分が殺人鬼だったとなれば、別人と捉えたくなるのも当然のような気がします。
最終的に暦は人間をサイコロに見立て、並行世界にいる自分というのは可能性だと解釈します。
つまり並行世界の自分も現実世界の自分と同一であり、並行世界の自分は現実世界の自分が辿るかもしれない未来だと捉えているということです。
僕も並行世界の人物は現実世界の人物と同一の人物だと思います。
たとえ考え方に違いがあったとしても、それは現実世界の自分とは違う選択をしたからそうなったからで、その選択に至るまでは現実世界の自分と同じ過程を経ていると思ったからです。
だから並行世界の自分が現実世界とは異なるような思考を持っていたとしても、根本は一緒なのだから並行世界の自分を拒否するのではなく、受け入れなければならないと思いました。
表紙はとてもポップな感じなのに、内容はとても深いです。
最後の最後で暦と和音の間に重大な事件が起きますが、彼らがどうやってその事件を乗り越えていったのか気になった方は本作を読んでみてください。
最後に
今回は乙野四方字さんの『僕が愛したすべての君へ』の感想を書いていきましたが、いかがだったでしょうか。
本作は『君を愛したひとりの僕へ』という作品と密接に関係しており、どちらを先に読んでも楽しめます。
世界観は一緒なのですが、主人公の暦が取る選択は本作とはかなり異なっています。
また、本作で謎になっていたことが『君を愛したひとりの僕へ』で解消されることがあるので面白いです。
(『君を愛したひとりの僕へ』の感想記事も近々UPする予定です。)
内容を忘れかけたころに今度は『君を愛したひとりの僕へ』→『僕が愛したすべての君へ』の順に再読してみたいと思います。
以上、乙野四方字さんの『僕が愛したすべての君へ』の感想でした。
最後までご覧いただき、ありがとうございました!
☆宜しければ、記事に対する感想をコメントしていただけると嬉しいです☆
僕のプロフィールについての記事はこちら☟