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息苦しさに包まれた少年たちの物語 ~佐野徹夜著『さよなら世界の終わり』読了!~

にかどくです。

 

今回は『さよなら世界の終わり』という小説を読了したので、こちらの感想記事を書いていきたいと思います。

さよなら世界の終わり(新潮文庫)

 

著者紹介

本作の著者は佐野徹夜さんです。

1987(昭和62)年、京都府生れ。同志社大学卒。2017(平成29)年、『君は月夜に光り輝く』で電撃小説大賞を受賞し、デビュー。同作は19年に映画化され、大ベストセラーとなる。近年、『文藝 』で短編を発表するなど、創作の幅を広げている。他の著書に『アオハル・ポイント』などがある。

 

佐野徹夜著『さよなら世界の終わり』

(2020年/新潮社/著者紹介より)

他の著書についてですが、『君は月夜に光り輝く』(2017年)、『この世界にiをこめて』(2017年)、『アオハル・ポイント』(2018年)、『君は月夜に光り輝く +Fragments』(2019年)の順に出版しています。

なお、『君は月夜に光り輝く』は2019年に永野芽郁さんと北村匠海さんが主演で映画化されています。

 

概要

僕は、死にかけると

未来を見ることができる 

 

校内放送のCreepを聴きながら、屋上のドアノブで首を吊ってナンバーズの数字を見ようとしていた昼休み、親友の天ヶ瀬が世界を壊す未来を見た。彼の顔を見ると、僕は胸が苦しい。だから、どうしても助けたいと思った――。いじめ、虐待、愛する人の喪失……。死にたいけれども死ねない僕らが、痛みと悲しみを乗り越えて「青春」を終わらせる物語。

生きづらさを抱えるすべての人へ。

 

佐野徹夜著『さよなら世界の終わり』

(2020年/新潮社/裏表紙より)

 

登場人物

登場人物をざっくりとまとめてみました。

 

・間中成理

本作の主人公で、高校生。青木と同じ高校に通う。

青木、天ヶ瀬とは琴平が所長を務める教育施設で出会い仲良くなる。

隕石が間近に落下したことにより、死に近付くと未来が見えるという特殊能力を持っている。

 

・天ヶ瀬充

隕石落下以降、間中と青木の前から姿を消した少年。

青木、真中とは琴平が所長を務める教育施設で出会い仲良くなる。

隕石が間近に落下したことにより、死に近付くと他人を洗脳できる特殊能力を持っている。

 

・青木真奈

高校生。間中と同じ高校に通う。

隕石が間近に落下したことにより、死に近付くと幽霊が見えるという特殊能力を持っている。

リストカットを繰り返して、幽霊であるミキと会話をしている。

 

・琴平淳美

登校拒否や犯罪歴のある子どもを更生させる教育施設の所長。

命令や規則に従わないと体罰を容赦なく与えるという暴力性を持っている。

 

・間中ミキ

成理の妹。中学生のときに担任に殺害されている。

 

・野沢大悟

間中とは中学生のときのクラスメイトで、前の高校を退学になり間中と青木の通う高校に転入してきた。間中とは以前仲が良かったが、現在は間中をいじめている。

 

・雪割忠司

36歳の中学教師。ミキのクラス担任で、妻と子どもがいる。

自分の人生に引け目を感じている。

 

感想(※ネタバレ含みます)

本作は人生に対する絶望感が満載の一冊だったと思います。

間中は中学1年生のときにクラスメイトからいじめられていることがきっかけで、引きこもりになります。

それを見兼ねた父親は、間中が中学2年生のときに琴平が所長を務める更生施設に間中を預けます。

おそらく父親としては更生施設で生活することで、引きこもりが治るかもしれないと期待していたのかもしれません。

でも、父親の期待とは真逆のことが更生施設では起きていました。

命令や規則違反、そして琴平の気に入らないことをすると暴力を振るわれたり監禁されたりするのがこの更生施設では日常茶飯事で行われていました。

こんなことしたら、更生とは真逆の結果を生むはずなのに。

琴平はきっと少年たちが更生することなんて1ミリも考えていなかったのかもしれません。更生施設に集まる少年たちはサンドバックとしてしか見ていなかったのかもしれません。

こういうことをした結果、天ヶ瀬は琴平を捕まえて殺害しようとします。

しかし、天ヶ瀬が琴平を殺害する未来を見た間中と青木によって琴平は解放されます。

きっとこの2人も琴平を殺したかっただろうと思いますが、天ヶ瀬を人殺しにさせないために琴平を解放したのだと思います。一線を越えれば、この世界に繫ぎ止めることができない。これは琴平を救ったのではなく、天ヶ瀬を救ったのだと個人的には思っています。

この天ヶ瀬ですが、更生施設に来るまでは家族から虐待を受けていました。火のついた煙草を腕に押し付けられたりと壮絶な虐待を受けています。粗末な扱いを受け続けてしまったことで、自分を必要としてくれる人間はこの世にはいないという諦念感がこの天ヶ瀬にはあったのかもしれません。だからこそ世界を壊したいという衝動が起きてしまい、人を殺すことも平気で行えるようになってしまったのかもしれません。間中の努力も空しく、天ヶ瀬は間中をいじめている人間を洗脳して殺し、家族も自らの手によって惨殺しています。

(ちなみに間中がいじめられているシーンはとても強烈でした。)

 

青木に関しては死んでしまった母親に会いたいがために死のうとしています。

おそらく独りぼっちで生きていくことが嫌になってしまったのだと思います。

愛を注いでくれる唯一の人間がこの世にいないというのは相当辛いことだと思います。親がいるということを当たり前だと思いがちですが、生きている以上何が起きるかわからないので、実は特別なことなんだとこの青木から教えてもらった気がします。

そして、間中が何も変わらなかった場合の未来が提示されています。

それは妹のミキを殺害した雪割です。

この雪割は一般企業に学歴差別で就職できなかったこと、教職の仕事に向いていないこと、投資に失敗して貯金が底を尽きたこと、そして純粋な恋愛をしてこなかったことを引きずっています。そう、この雪割も主人公たちと同じように息苦しさを抱えながら生きてきたのです。そして自分の人生が嫌になって自暴自棄になった挙句、人生を終わらせるために自分の妻や子ども、間中の妹であるミキを殺害しました。これは自分で人生を終わらせることができないから、犯罪を起こして自分の人生を他人に終わらせてもらおうと思ったのだと思います。3人以上殺せば死刑になる確率が高いということを知っていたからこその行動でした。そんな計画をするほど雪割は生きていることが恐ろしかったのです。

 

最終的には間中は生きる意味を見つけていたので良かったと思いますが、もし生きる意味を見つけられなかったらと思うと恐ろしいです。そしてこれは間中だけに当てはまるものでは無く、誰にでも起こり得る未来なのかもしれないと思いました。

生きる意味を見つけるためには、自分から動くしかない。

状況が変わるのを待っている、何でもかんでも諦めて動き出さないのは、ある意味死んでいることなのではないかと思いました。

 

最後に

今回は佐野徹夜さんの『さよなら世界の終わり』の感想記事を書いていきましたが、いかがだったでしょうか。

あとがきにも書かれていますが、本作は著者が人生で初めて書いた小説だそうです。

著者の他の作品と比べて読みづらい箇所はありますが、それでも長編を書けるのは凄いなと思います。

そして本作の内容とあとがきのトーンが同じことから、著者自身も主人公たちと同じような苦しさを持っているということをひしひしと感じました。

 

本作はハッピーエンドともバッドエンドとも捉えられるような気がします。

読者のコンディションによっては捉え方がわかれるかもしれません。

ちなみに僕は主人公がもがきながらも生きる意味を見つけたことから、ハッピーエンドと捉えました。

本作を読んだ方に結末をどう捉えたのかを聞いてみたいです!

 

どうやら本作のPVがあるようなので、リンクを貼っておきます。


佐野徹夜『さよなら世界の終わり』PV|新潮文庫nex

 

以上、佐野徹夜さんの『さよなら世界の終わり』の感想記事でした。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

さよなら世界の終わり(新潮文庫)

さよなら世界の終わり(新潮文庫)

 

 

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