にかどくです。
今回は『サクラオト』を読了したので、こちらの感想を書いていきます。
著者紹介
本作の著者は彩坂美月さんです。
山形県生まれ。
2009年『未成年儀式』で富士見ヤングミステリー大賞に準入選し、デビュー。
ほかの著書に『ひぐらしふる有馬千夏の不可思議なある夏の日』『夏の王国で目覚めない』『みどりの町の怪人』『向日葵を手折る』などがある。
彩坂美月著『サクラオト』
(2021年/集英社/カバー袖より)
概要
朝人が詩織を連れ出した満開の夜桜の下には、痛ましい事件が埋まっていた。
少女が起こしたクラスメイトの毒殺、恋人同士の扼殺、中学教師による教え子殺し……なぜ、ここで殺人事件が起きるのか?
少女が口にしていた「桜の音が聞こえる」という言葉も謎を深めていく(「サクラオト」)。
聴覚を鍵に描いた表題作など五感をテーマにした五編+Extra stage「第六感」からなる本格ミステリー連作短編集。
彩坂美月著『サクラオト』
(2021年/集英社/裏表紙より)
各編の概要
第一話『サクラオト』春
ミステリ研究会に所属している西崎朝人は、想い人である遠藤詩織を事件が頻繁に起きる桜満開の廃校舎へと誘う。朝人は詩織が卒業後も頻繁に事件が起きてしまうという謎を解くために会ってくれると思っていたが、彼女は田所雅也と結婚するという。
それを聞いた朝人にある異変が起きる……。
第二話『その日の赤』夏
高校生の樋口夏帆は、ある日弟の晴希が小さな女の子を連れて人気のない公園の女子トイレに消えていく場面を目撃してしまう。小さな子供がイタズラされる事件が相次いで発生していることを知った夏帆は、その犯人が弟なのではないかと疑い始める……。
第三話『Under the rose』秋
主婦の橋本菜摘は高校時代の園芸部の集まりに参加し、今でも憧れている先輩の綾子や当時の部員たちと再会する。楽しい時間をそこで過ごすが、その3日後に集まりに参加していた真奈美から、綾子が自宅の温室で亡くなったことを知らされる。
その遺体の周りには彼女が大切に育てていた薔薇の花びらが散っていた……。
第四話『悪いケーキ』冬
斉藤紘一はクリスマスケーキが苦手であり、それが原因で彼女に振られてしまったことを友人の三島空知に話す。デコレーションケーキが苦手になった原因は別荘に一人取り残されたことがトラウマになっていることが判明し、空知は苦手克服のために別荘に訪れることを提案する。
しかし、このトラウマの裏にはある事件が隠されていた……。
第五話『春を掴む』春
人見知りの小沢風花は幼いころに原颯太に助けられたことで、彼と付き合うことになる。同じ大学に進学し、同じアルバイトをしており仲がとても良い。
そんな中、風花は颯太の友人である岡部史郎からいろんなメッセージが送られてくるようになる。
風花は困っていたが、岡部の行動は徐々にエスカレートしていく……。
Extra stage『第六感』
「サクラオト」の著者である沢村と編集者であるはるかは桜が満開の廃墟を訪れる。
他愛もない話を二人はしていたが、はるかは「サクラオト」の構成で疑問に思ったことを沢村に話し始める……。
感想(※ネタバレあり)
個人的に恐ろしかったのは第四話の『悪いケーキ』です。
この話は各編の概要でも書いたとおり、紘一の苦手克服のために空知とともに別荘を訪れる話です。
この話で疑問に思ったのは、どうして紘一はクリスマスそのものに嫌悪感を抱かないのか、という点です。
紘一はクリスマスツリーを飾ったり、クリスマスソングを歌ったり聴いたりすることに嫌悪感を示しませんでした。
大人に置き去りにされたというトラウマがあるのなら、クリスマスそのものに嫌悪感を抱くのが普通のような気がします。
しかし、空知は恐ろしい推測をしました。
その恐ろしい推測は納得のできるものでした。
クリスマスケーキに嫌悪感を抱くのは、それを生存を脅かす危険物だと認識しているからです。
そして、どうして生存を脅かす危険物だと認識しているのかと言えば、このケーキを食べた伯母の琴美に何らかの異常が起きたからです。
詳しく触れてしまうと面白さが半減してしまうためこの程度に留めておきますが、この話の恐ろしいところは最後の最後です。
ある人物が吹雪の中、2人のもとにケーキを届けるのですが、空知の推測が全部事実ならばこの描写はとても恐ろしいと感じました。
この『悪いケーキ』は味覚に関するミステリです。
『サクラオト』は聴覚、『その日の赤』は視覚、『Under the rose』は嗅覚、『春を掴む』は触覚に関するミステリとなっています。
各話読みやすいので、一気読みできるかと思います。
最後に
今回は彩坂美月さんの『サクラオト』の感想記事でしたが、いかがだったでしょうか。
本作はジャケットの絵が魅力的だったので、どんな小説なのかも分からないまま手に取りました。
帯を見ればミステリだと分かるのですが、一切気にしませんでした。
だからてっきり恋愛ものなのかなと思っていましたが、まさかこんなに本格的なミステリを読めるとは思ってもいませんでした。
手軽に本格ミステリを楽しみたいという方は、本作を手に取ってみてはいかがでしょうか。
以上、彩坂美月さんの『サクラオト』の感想記事でした。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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